初診日:2021年12月18日
CASE HISTORY
68歳男性.
高血圧と脂質異常症(コレステロール値の異常)でクリニックを通院していた.
2年ほど前から,階段の上り下りで胸が締め付けられるようなことはあったが,エレベーターやエスカレーターを使えば生活の支障とはならなかった.
数カ月前から平地で歩いているときも胸が締め付けられて,息が上がるようになったので,歩行は休み休み行うようになった.
ここ数日は,靴を履くのもつらくなり,歩ける距離はどんどん短くなってきた.
心配になりかかりつけのクリニックでレントゲンをとると,胸水が溜まっており,心不全疑いで専門病院へ紹介となった.
※フィクションです.
CASE SUMMURY
狭心症(右冠動脈の慢性完全閉塞):枝が1本枯れ,雪が積もっている
冠動脈は,心臓を栄養する血管です.
この血管が狭くなったり詰まったりする病気を,狭心症や心筋梗塞と呼びます.
今回は,冠動脈が1本(右冠動脈が)詰まっています.
しかし,心筋梗塞ではなく,狭心症です.
心筋梗塞と狭心症の大きな違いは,狭窄(狭さ)の程度ではなく,突然発症したかどうか.
今回の症例は,2年前からあった狭心症の症状を放置したことで,徐々に徐々に狭窄が進行し,最終的に血管が詰まってしまった経過です(慢性の虚血).
長い間,血流不足にさらされた心臓は,「冬眠 hibernation」という状態になり,動きが悪くなります
血流が少ないので,"省エネ"で動こうとする防御機構です.
この慢性虚血による冬眠を,枯れた木の枝に雪を積もらせることで表現しました.
≫参考Case:急性心筋梗塞「CryptoHeartFailure #1」
虚血性心筋症:朱文金
朱文金は,赤色や藍色,黒色のまだら模様の美しい金魚です.
虚血性心筋症とは,心臓を栄養する血管(冠動脈)のトラブルによる心筋の障害です.
血流が足らない部分の心筋は,機能が低下します.
今回の症例は,慢性の虚血で,心筋が「冬眠 hibernation」している状態.
血管(冠動脈)は,木の枝のようにいくつにも分かれているため,「機能が落ちている部分」と「機能が落ちていない部分」が混在することが,虚血性心筋症の特徴です.
このような「まだらな機能の低下」が,朱文金の模様を連想させます.
大動脈弁狭窄症:滝の流水模様
心臓の中には,逆流を防止するための弁があります.
弁の機能に異常がある状態を弁膜症と言います.
この症例では,大動脈弁という弁がうまく開かなくなっています.
「大動脈弁狭窄症」という名前の弁膜症です.
しっかり弁が開かないことで,血流が通りづらくなってしまいます(狭窄).
狭い部分を流れる血流は,速度が速くなります.
ちょうど,ホースの先端をつまんだときに,水の勢いが増すのと同じです
弁の狭窄が生む速い血流を,滝のような流水模様が表現しています.
収縮力が軽度に低下:胡麻文様の三日月
心臓はポンプの臓器です.
"ギュッと"縮こまる力(収縮力)は,心不全の予後や治療法に影響を与えます.
胡麻文様には,健康長寿を祈る意味が込められています.
この症例は,少し収縮力が低下していますが,これから適切な治療を行うことで寿命を延ばせます.
そんな長生きの祈りを胡麻文様の月が示しています.
また,月が欠けていることは,収縮力が部分的(冬眠している部分だけ)に欠落していることを表現しています.
洞調律(正常なリズム):晴天
心臓は,リズミカルに鼓動を打ちます.
規則正く適切な速度のリズムを打つのが,正常な心臓です.
洞調律とは,"洞結節"という心臓の発電所が指揮をする調律(リズム).
洞結節は,心臓公認の指揮者です.
洞結節が指示する洞調律は,正常なリズムということです.
[s
Point
慢性の虚血による心収縮力の低下に,大動脈弁狭窄症を合併したことによる心不全.
TREATMENT RECORD
Mai Kanoは,各種検査より息切れの原因はうっ血性心不全であると考え,利尿薬による治療を開始した.
(≫うっ血性心不全については#2のTREATMENT RECORDで説明しています.)
しかし,心エコー検査にて大動脈弁狭窄症を認めたため,血圧の低下に注意だ.
Mai Kanoは,利尿薬の使用量は少量にすることとし,慎重に経過を見ることとした.
-to be continued...